『ええ。あなたと猫ちゃんは、木から落ちた時の衝撃で何らかの力が働いて中身…つまり魂だけ入れ替わってしまったんだわ。だから、今ここに入院しているあなたの身体の中に必ず猫ちゃんがいる筈よ』

『じゃあ…』

『ええ、猫ちゃんは無事ってことね』

不安気な瞳で見上げてくる実琴を元気付けるように、女性は笑顔を見せるとウインクした。


『…良かった…』


子猫の無事が分かっただけでも随分と心が軽くなるというものだ。

元に戻れる可能性も見えてきて、実琴は安堵の表情を浮かべた。

『未だ目を覚まさないのは体力を消耗しているからかも知れないわね。木から助けた時点でかなり弱っていたのかも。それにね、他人の身体に入るのってすごく体力がいるものなのよ』

『え…?そうなんですか?』

確かに自分も疲れやすいとは思っていた。

(単に子猫だから体力ないのかと思ってたけど、そうじゃないんだ)

『ええ。やっぱり拒否反応みたいなものが働くのかしら。あの怠さは、ちょっとね…』

その過去を思い出しているかのような言い回しに。

『もしかして、守護霊さんも誰かに入ったことあるんですか?』

何気なく浮かんだ疑問を口にすると、女性は一瞬目を丸くし、その後悪戯っぽい表情を浮かべた。

『ふふふっ。幽霊になって初めの頃ちょっとした出来心で、ね。あ、でも乗っ取ろうとしたワケじゃないのよ。本当よっ』

その、どこか取り繕うような慌てぶりに。

実琴は思わず背筋に冷たいものが走り、背中の毛を逆立てるのだった。