その時、開かれたままのドアから清掃員らしき年配の女性が数人バケツやモップを手に屋上へと出てきた。


(わっ、人がっ!)

一応死角になる位置にはいるものの、実琴はこちらに来ることがないか警戒しながら陰から様子を伺っていた。

だが、反対側の奥に備品の倉庫があったらしく、皆がそちらへと向かったのを確認すると、ホッと胸をなで下ろしていたのだが、ふと目の前の女性のことが気になった。

彼女は建物の陰に隠れることもせず、堂々とそのまま考えにふけっている。

(あ、そっか…。守護霊さんは普通の人には見えないから隠れたりしなくても良いんだ…)

実際、自分は17年間生きて来て一度も霊の存在などに気付いたことはなかった。元々霊感なんて皆無なのだ。

なのに何故、今はこんなにハッキリと見えて話せているのか不思議な位だった。


それだけ、この女性の力が強いのか。

はたまた猫になってることで自分にも見えているのか。

詳しいことは何も解らないけれど。


(あ…でも、そう言えば猫ってよく変な所を見て固まってることあるよね。あれって実は霊とかが見えていたりして…?)

すっかり今のこの状況と関係ないことに考えが及んでしまっている実琴をよそに、守護霊の女性がそこでやっと口を開いた。

『話を聞いておいて申し訳ないのだけど、私にも詳しいことは何も分からないの。でも、一つだけハッキリと言えることがあるわ』

『ひとつだけ…?』