部室から入り込む風に思わず身が震え、勢いよく窓を閉めた。

 その瞬間ぷっと吹き出したのは北村君。


――あの衝撃の出会いから早1ヶ月。

 私の特集号を書く為にわざわざ部室までに足を運んで来てくれたのはいいとして、いい加減私を見るだけなのは、滅茶苦茶気になる。

 かと言って私から話し掛けるのもちょっとヤだ。

 何しろあいつだし。

 
 髪くらい、黒髪にして欲しいと思うのはいけないことなんだろうか。

「……思ってること、まるぎこえ」

「え゛……?」

「ま、俺の外見は誰が見たって“不良”だもんなー」

 あ、この人自覚してたんだ。

「でもまぁ奈津の反応は分かり易くて、面白かった」

「下の名前の呼び捨てはやめてよっ!」

「――はぁ? 俺ら一緒の同士じゃん。
 互いにそう呼ぶのは当たり前だろ?」

 下から覗き込むように見てくる目。

「嫌なもんは嫌」

 だってまだ一之瀬君とでさえ、下の名前で呼び捨てにしたことは一度もない。

 やっぱり男女間で互いにそう呼び合うのは特別な意味がある、と私は思っている。


「もしかして奈津ってあの彼氏とはまだ下の名前で呼び合ったことない?」

 彼氏という慣れない言葉に少し戸惑いを感じながらも、まさにその言葉は図星。

 それを肯定するのが悔しくて、ただただ顔が赤くなるだけ。


「はははははははっ!! 
 お前らまだとかまじ、ウケるっ! 
 てっきりもう全て終わらせてるのかと思ってた」

「……けっ、警察に訴えますよ!!」

 もう半ば半泣きだ。

「ごめんなー! ……でもイマドキ下の名前で呼び合うことを躊躇してるなんて可愛いなと思っただけ」

「かっ……!!」

――『可愛い』?!