「ねえねえ、グラウンド事件知ってる?!」

「知ってる知ってる! 詩を書いた紙が屋上から降ってきたんでしょ? しかもその詩、めちゃ共感するんでしょ? 1回読んでみたいよねー」

 
 あの事件の後――
 今や全校の噂の的。

 幸い自分の姿は女子生徒だったって言うのだけで、終わっていた。

 口々に言われる適当な憶測にちょっと私としては、胃が痛い。
 
 私が書いたのを知ってるのは、菜穂と一之瀬君だけだった。

「……グラウンド事件か」

 一之瀬君はにこっと笑う。
 
 その笑顔には裏がありそう。

 私は何となく含み笑いする一之瀬君を怒り気味で、黙ってとだけ告げるとさらに笑う。

 意味分からない。

 昨日といい、今日といい、何か一之瀬君には振り回されっぱなし。

 しかもいまいち一之瀬君の考えが読めないし。

 おまけに文芸部入部だなんて一体何を考えてるんだろう。