「いいいいいい、一之瀬君?」
中野の声が上ずっている。
それでも俺はお構いなしに中野に抱きつきっ放し。
好きで、好きで、どうしようもないんだ。
溢れる気持ちを君には巧く伝えれない。
この黒い闇の中に中野だけが輝いて見えた。
ようやく放れると、中野は顔を真っ赤にさせて、顔を俯かせている。
その表情を見、俺ははっとする。
なんで中野の気持ちも考えずに勢い任せに抱き締めてしまったんだろう。
あれは完全理性を失っていた。
ヤバイ、ほんとに。どうしようもない。
俺はその場を取り繕うように「ごめん」と頭を下げると中野は「平気だよ」と返してくれる。
そして再び顔を上げると中野があまりにも優しく微笑んでいたから、再び理性がぶっ飛びそうになった。
中野はそんな俺の気持ちを知ってか知らずか喋り出す。
「……さっきね、私、誰かが呼んでいるような気がしたんだ。そしたら一之瀬君がいるんだもん。
少し驚いた」
「……俺も、中野がいるなんて思ってもなかった」
不思議なほど心が安らぐ。
さっきまでの不安に殺されそうになっている自分が、こうも簡単に中野の言葉一つで安らぎに変わっていくんだ。
ふっと笑いが毀れる。
中野も顔が笑っていた。
2人して笑いあうと何となく恥ずかしいような、温かいような気持ちになる。