君色キャンバス


 俺は父親以上の絵を描こうなんて思ってもいないのに、俺の中で騒ぐ血はかなりの確立で父親の遺伝子のせい。

 もちろん父がいなければ絵なんていう世界も知らなかった。

 あの後姿に俺は憧れて……――っ!

 
 そこからまた記憶を掻き消す。

 親子での記憶なんて思い出せば思い出すほど惨めになる。

 忘れようとしているのに、忘れられない。

 
 俺はもう気分に耐えられなくなり、外に飛び出し無我夢中で走った。
 
 走って、走って、走って。

 夜空の下で俺の過去が悲鳴をあげる。


「あ、一之瀬君!」


 その声が響いた途端に俺は走るのを止めた。

 いきなり止まったせいか、かなり心臓がバクバク音立てていて、俺はカッコ悪く地面に倒れるように寝そべった。

 星が真上にあった。綺麗だ。

 
「……一之瀬君?」


 不安げに訊くその表情さえも、俺は愛しく思ってしまう。

 大切で、失いたくない。


「――中野……」

 そう呼んだ瞬間、気持ちが和らぐ。

 俺は目の前の君だけでしか過去を止めることが出来ないんだ。

 
 体を起こし、その勢いで中野に抱きつく。