「一之瀬省吾の絵と似すぎている」


――ドクン

 心臓が激しく波打つ。

「……それはどういう意味ですか?」

「繊細な所が君のお父さんとそっくりだ!

 先生はこう見えても一之瀬省吾と同じ美大を卒業した。
 もうその頃から一之瀬省吾は飛びぬけていたよ。

 神が与えた才能とでも言うべき存在だった。

 それが確かに一之瀬君にも受け継がれている」

 感慨深く言い放つその姿に俺は手が震えた。

 アイツと一緒の血が流れてるという事はそういう事。

 切っても切れない存在。

 
 そしてそれは受け継がれる。


「いきなりだかこのキャンバスに一之瀬君の絵を描いて欲しい。
 今の想いを全てぶつけてもいい」

 そう言って奥から出してきたのは今までに見たことのないサイズのキャンバス。

 その白い世界に俺は一瞬で手が震える。

「君の油絵が見たい。いきなり言ってすまない。
 だか見せて欲しい」


 篠原先生はきっと俺の絵を通して、俺の父の幻影を追うために俺に描かせるんだろう。

 分かっていながらも、俺の手は絵を求めてる。

 描きたい――

 そう思った瞬間体が動く。

「油絵の道具はどこですか?」

「そこにある、好きに使っていい」

 篠原先生の目が一気に真剣な目に変わる。

「分かりました、出来る限り描きます。
 ですが完成した時は俺と父の絵の違いを必ず教えて下さい」

「約束する」

 その言葉を聞き取り、俺はいつもように筆を持つ。
 
 油絵独特のにおいが室内に駆け巡る。

 一つキャンバスに色を落とすと、そこからは勝手に手が動く。