ダンダンと勢い任せに階段を駆け下りる。

 途中で足を踏み外そうになったけど、何とか体制を整えた。

 思わずその場で蹲る。

「どうしよう……」

 起こってしまった事はもう二度と戻る訳もなく、ただただ今の感情を整理するのだけで精一杯だった。

 馬鹿、その言葉が今、一番私に似合ってる。

 
 あの一枚一枚には私の心、私の全てが詰まっていた。

 それをあんな風に失って、しかもほぼグラウンドに散乱し、収集不可能。

 蹲ったままそこからは足が動かない。


「これ、中野(なかの)の?」

 え。

 その声に思わずばっと顔を見上げた。

 そうすると一之瀬君、だった。

 
 手には数枚のルーズリーフの束。
 
 一之瀬君を盗み見るかのように見つめ、差し出されているルーズリーフを躊躇いがちに手にする。

「聞きたいんだけど」

「えっ?!」

 一之瀬君は決して私から目を逸らす事無く

「それ、中野が書いたの?」

 と、聞いてきた。

 
 来た! その質問。
 
 今一番突っ込まれて欲しくない質問だった。

 私はちらっと一之瀬君を見ると、やっぱりこちらを見つめたまま視線を逸らそうとはしない。

 私はその視線に躊躇いを感じながら

「うん……」

 とだけ答える。

 
 その瞬間、一之瀬君が今までに見たことのない表情を浮かべた。 

 うわ、やっぱり引かれたんだ。
 
 私は一之瀬君の顔をそれからは見ることが出来なくなり、とりあえずその場を取り繕うかのように言葉を繋いだ。