もうどんなに叫んで願ったって時間なんて、戻れるはずもないのにな。

 馬鹿すぎて、浅はか過ぎて……泣けてくる。


 
 その日、俺は時間の感覚さえ忘れて自分が描いた絵の目の前に立ち、その絵を眺め続けた。

 気がつけばまた朝日が差し込み、“今日”が始まる。

 皮肉なもんだな。
 時間なんて。

 時間が経てば何もかもがうろ覚えになってしまうから。


 ふと中野が持って来たプリントに目を落とす。

 そうすると1枚の紙が落ちてきた。

 それを拾い上げ読むと、思わずその文字に目を奪われた。


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 棲む世界に 濁る夢 

 儚い未来に 孤独を描く

 例え僕に終わりが見えようと

 それさえも魅せて欲しい


 終わりで始まる この“今日”が

 変わってゆく音を 僕は知りたい


 冷たいから 求めてしまう

 暖かいから 失ってしまう


 そのカケラの断片に 

 僕は涕を一つ堕とした


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 この詩は――何なんだろう。

 俺自身を中野が書いたのか、それとも中野が中野自身を書いたのか。


 ……そんな事はどうだっていい。

 こんなにも空白の時間をなんで中野の詞(ことば)1つで変わってしまうんだろう。