一之瀬君のあの屋上で見せた表情が頭から離れなかった。

 いっつも無表情で、何考えてるのか全く分からない。

 なのに、あの表情はどう見たって何か不安げで、独りにさせてしまうのは何だか不安だった。


 だけど……。

 私はその思った言葉を口にする事はなく、黙って一之瀬君と一緒に屋上から離れた。


 あれから――
 一之瀬君は学校を休んでいた。

 今日で3日が経つ。

 先生に訊いてみたら「ただの風邪」とだけ言われてしまい、逆に不安が更に増し、今、私は一之瀬君の家の前に立っていた。


 それはちゃんとした理由があった。

 先生から頼まれたプリントを一之瀬君に届けるため。

 渡された地図はあまりにも大雑把過ぎて、よくよく来てみれば学校からかなり近いのに、ここまでくるのに3時間もかかてしまった。


 どうしよう。

 このまま呼び鈴を鳴らしてしまっていいんだろうか。

 もし家族とかが出て来たら嫌じゃないかな。

 もんもんと悩んでいると急に玄関が開いた。

 私は反射的に体が一瞬震える。


「――さっきから何?」

 い、一之瀬君……。