「――お帰り、響」

 表情のない声。

 
 やっぱり榊原さんは怒ってはいない。

 外見では。


 でも心の中では俺が逃げたことに対して、許してはいないはず。



「響、真実はあっけないものだっただろう?」


 
――……っ!


 俺はただただ榊原さんの表情を目で追うことしか出来ない。

 
「……榊原さんは、このことを知っていたからこそ、俺に教えなかったんですよね?」

 動揺を隠し切れないまま、問いかけた。


「――ああ」


「なぜですか?」


「響が……――幸せを求めているからだ」


 その言葉は今までのどんな言葉よりも俺を貫いた。

 激しい感情に襲われ、何かが上昇する。


「響は弱い。
 そして誰かに自分を救って欲しいと思ってる。

 自分だけ被害者なフリして」


「俺は弱いのは認めます。

 けれど自分が被害者だなんて思ったことは一度もありません!

 むしろ加害者で、誰かを傷つけてることくらい、百も承知してます!!」


「じゃあ、今のこの状態はなんだ?

 絵を失えてもいないし、大切な人も失えない。

 中途半端な姿は見ていてこっちが不愉快だ。

 お前が選んだのは絵だろ!

 さっさと未練なんか捨ててしまえ」



――『お前の母親は…………なんだよ』


 そう言った北村の言葉がちらつく。