「中の中だけど、何か?」

 そう言うと 悔しいから頬を膨らませぷいっと顔を横に向ける。

 そうしたら一之瀬君の笑った声が聞こえた。


「ははっ! やっぱ中野って……“普通”なんだな」

「普通が一番じゃない!」

「――そうだな」

 
 一之瀬君は急に声のトーンを下げた。

 そしてまたあの時と同じように教室の窓から外の世界を見る。

 その横顔が寂しげに見えた。


「俺さ」

 
 急に喋り始めて、一言発すると何分か沈黙したまま口を開こうとしない。

 けれどこの沈黙が今は少しだけ心地がいい。



「学校なんて、ずっとオリの中にいるみたいだ、て思ってた」

「――え?」

「こんな四角い箱に、1クラス大体40人もぎゅうぎゅうに詰め込んで、教師に洗脳されるだけされといて、その中でも上の奴がこのクラスを支配する。

 はっきり言って学校は窮屈以外なにものでもなかった」


「……檻の中……?」


 私は一度だって檻の中にいるように思ったことは無かった。

 

 友達と一緒に話して、

 趣味に打ち込んで、

 たまに授業中居眠りなんかしちゃって。


 私には“檻”なんて一度も見えない。