「あのぉ……。」

土曜日の部活。

朝、8時に部室に現れたのは、花柄のワンピースを装った女の子だった。

ゆら先輩が

「なに?どうしました?」

と、彼女の方へ駆け寄る。

女の子はとても、綺麗な子だった。

ぱっちりとした瞳に、ふさふさの長いまつげ。

整えられた髪型はゆるくまかれていて、肩までのびている。

つややかなミルクティー色の髪。

スラリとした体型でワンピースがよく似合っていた。

「あの、早瀬 紗友(はやせ さゆ)です。」

「うん?それで、紗友ちゃんはどんな用事なわけ?」

オドオドする紗友ちゃんが気に食わないのか、急いでいるのか、わからないけど、ゆら先輩は不機嫌そうに問う。

「えっとぉ、あの、野球、みてても、いいですか。」

可愛らしい声を静かに響かせる紗友ちゃん。

どこの高校の子だろ。

「あ、川浜高校1年です!」

川浜高校、か。

私が滑り止めで受けたやつだ。

確か、野球部は1度、甲子園にいってたよね。

「まぁ、いいんじゃない。邪魔にならないとこで見ててよね?」

「は、はい!!」

紗友ちゃんはぺこりと可愛らしく礼をすると、タタッとフェンスに駆け寄る。

ボールやら、ポットやらを準備しながらゆら先輩は、

「私、あーゆー子苦手なんだよねぇ」

って苦笑した。

綺麗な子だったな。

もちろん、ゆら先輩のほうが素敵だけどね!

私は体操服に着替え、ポットとボールかごを持って、部室からでた。

すでに部員の男達はフェンスから野球部をみつめる、美少女、紗友ちゃんにざわついていた。

岩橋くんも、見てたり……?

少し、胸がざわついて周りを見渡す。

案の定、岩橋くんとキャプテンであり、ゆら先輩の彼氏である元山先輩はストレッチをしていた。

ホッ。

……。

ホッ……??

なんで、ホッとしたんだろ。

まぁ、いいか…。

ゆら先輩もあとから部室から出てきて、野球部員を見た瞬間、顔が睨むように変わった。

ひぇぇ。

こわいぃ〜!

「ちょっと、あんたらはやくストレッチはじめて!モタモタすんなばか!」

口悪すぎ……。

ほんと、素敵な先輩。

「あと、紗友ちゃんだっけ?邪魔しないで。」

そう吐き捨てるように言うと厳しい顔で、ポットにスポーツ飲料を用意する。

かっこいい。

「紗友……?」

後ろで声がした。

紗友ちゃんの、知り合い?

後ろを振り向くと、

えっ……。

岩橋くん……。

「い、岩橋くん?」

私がおそるおそる声をかけると、

「あ、ごめん。なんでもない。練習始めよう。」

と、みんなの場所へ戻った。

紗友ちゃんと、どういう関係なのかな?

知り合いなのはそうっぽかったけど…。

なんだか、モヤモヤする〜!

私はそれを振り払うように、ギュッと髪をポニーテールに結んだ。