それは、まるで映画のような光景だった。
 
彼女が彼の後頭を引き寄せて、唇を自分のそれに重ね合わせる。
彼は睫毛を伏せて目を細め、気怠げに彼女に角度を合わせる。

「ん…ふぅ」

堪えきれない彼女が小さく喘ぎ、彼の後頭を押し付けて、更に深く舌を浸入させた。
彼はそれを受け入れて、更に相手の口腔に己のそれを押し入れてゆく…

……ひゃああぁ、凄~いディープ・キス。
ヒトがしてるの、初めて見たよ。

にしてもさあ、キス顔が間抜けに見えない人って、いるもんだなあ……

すっかり魅了された私は、麻痺したように、そこから目が離せない。

どれだけの時がたっただろうか。
やがて彼の喉頭が動き、溜飲が下がった。

ゴクッ。
思わず併せて唾を飲む。

すると彼が割りと強く、彼女の頭をペリッと剥がした。

「ねぇ……今夜…私と…」
トロリとした目の彼女が、彼に向かって誘っている。

よく聞こえない、もう少し……

身を乗り出した私はその姿勢のまま固まった。

シマッタぁ!!

見てしまった。
大神さんの目が既に、ピーピング・トム(覗き屋さん)状態の私をかっちりロックオンしているのを。

あわわわわ……バレた!

私は慌ててガサガサと逃走を試みた。
が___

「赤野ぉ‼」