追いかけるのに背が低いのは不利だ。何故ならコンパスが短いから。

会社の門を出たところで、私はやっと大神カチョーに追い付いた。

「…はぁっ…カチョー」

息を切らしてスーツの裾をグイッと掴むと、彼はやっと止まってくれた。

苦りきった彼の顔がゆっくりと振り返る。

「しくじった……よな」

「そうですよ!あんな、カチョーらしくもない。平田さんなんてパニクッちゃって」
 
どんなにイヤな人にでも、それが“お客さん”ならば至福の笑顔で話すことができる確信犯的人タラしが。

あろうことか、お仕事のスポンサーに、大人げない啖呵を切ったのだ。

「……もっと用意周到に根回しして……社会的にジワジワと追い詰めてやりたかったのに…」

チガウ‼

「そうじゃなくて。
私はもうすっかり平気なんですから……」

“あなたのオカゲで”
と付け加えたいが止めておいた。


彼はそれには答えずに、また街の方に向かって歩きだした。私はその後を追いかける。


やがてポツンと彼が言った。
「……俺は……ヘイキじゃなかったんだ」

ギリッと歯噛みした彼は、苛立ちを露に呟いた。

「君がコーヒー出した時のアイツの顔、見たかよ。
バカにしやがって。
まだ自分に気があるとでも思ってるのか…」

「そんな事は……気にしてないですから。
スイマセン…私がカチョーに余計なコト言ったから…」

私は申し訳なさで一杯だった。

こないだの私の憐れなサマが、彼のフェミニスト精神に火をつけてしまったのかも知れない。