「それよりも…リハーサル通り、ちゃんと手順は覚えてるだろうな?」

私の小さいお辞儀なんか見もせずに、お弁当を開きながら彼は尋ねた。
 
「モチロン、覚えてますって。
あれだけ毎日練習させられたんですから…」

「本っ当に大丈夫だろうな?
今日のプレゼンは、大手のお得意様も見えられる大事なヤツなんだぞ」

どうやら今回は彼にとっても中々の大舞台らしい。

『課長が逃げて押し付けた』
って皆がウワサしてたけど…

なら私なんか、連れていかなきゃあいいのにさ。

思いながらも私は自信たっぷりに告げた。

「ら~いじょうぶですって!
リハではタイミングもタイムも
バッチリだったじゃないですか。
課長にも見て貰ったし」

「まあ……そうだな」

彼はチラりと私を横目に、ウナギのカバヤキを頬張った。

今回の出張の目的は、支社の顧客の皆様に
『新製品のコンセプトと当社からのご提案』
をレセプション形式で発表すること。

私は彼の補佐役で、パワポ(パソコン画面をスクリーンに写すやつ)の切り替えをやるんだ。

今週はずっと、その切り替えのタイミング練習ばかりをうんざりするほどやらされていたから、彼の発表原稿だってもう諳(そら)んじて言えるほどだ。

マウスの操作ごときは、足の指でだってやって差し上げる。

全く、いっつもエラソーな癖して
心配しすぎなんだって。

気が小さいんだから。