誘う幻想 ノーカウント37

「エレベーターを止めたのはお前か」

「そう、すぐに逃げられたけどね」

紫色の長い髪、切れ長の目、痩せていて黒いコートを着ている。
清は一瞬女かと思ったが、低い声と肩で気がついた。

こいつは男だ。

本気を出しても大丈夫だと判断し、攻撃のタイミングを計る。

「ふふっ、遅いのですね」

一瞬見えなくなった。その直後、足に激しい痛みが走る。足を抑えてうずくまる。

「早く終わってよかった」

そう言って手錠をかけられる。まともに反撃も出来ず、あっけなく捕まってしまった。
悔しかった。

「……どうしよう」

優里香一人でどうにかできる相手ではない。清を捕まえてしまうような人だ。

「ああっ!せめて道具が強ければ!」

優里香は頭を抱える。猫缶は強くない。特殊な鍵を開けたり猫を元気にするものだ。

「にゃうん?」

タマが優里香の側に来る。

「次はあなたですね?」

微笑んでいたが恐ろしかった。後ずさりして、捕まった時のことを考える。ひどいことをされるのか、家に帰れなくなるのか……そう思うと恐ろしかった。

「シャー!」

タマは毛を逆立てて威嚇する。しかし、相手は猫を恐れていない。

「大人しくしてくれたら、何もしませんよ」

手が近づく。

嫌だ!優里香は涙目になる。
もう勝ち目はない。大人しくしておいた方がいいのかもしれない。そう思った時だった。

「シャー!」

タマは自分より大きい相手に威嚇する。タマは小さな体で頑張っているのに、私はやる前から諦めかけた。

「諦めない……」

間からするりと抜け出る。

「私は諦めない!救援は、きっと来る!」

先に降りた人たちは階段を使うだろう。そう考えて、階段を降りる。
もしかしたら敵に挟まれるかもしれない。別のルートを使っているかもしれない。

それでも、今はただ戻って来れると信じて進む。