「さっきの人たちが出て行く。追え!」

急に指をさすので驚いた。私は言われた通り追いかける。

「ここからは一人でやるんだ」

一人でと言われると心細くなる。

「その棒を使うんだ……」

棒を握りしめる。ちゃんと聞いておかないと……


「真ん中の女を殴れ」


今、何て……

「あいつから力を奪うんだ。じゃないとお前は歌手になれない。奪わないとお前には何も無いんだぞ」

何も無い……確かにそうだ……私、歌手になるために必要なものを何も持っていない。

「やれ。なりたいんだろ?」

「でも……」


「やらないと殺すぞ」

その低い声を聞いてゾッとした。
死にたくない!

気付いたら殴っていた。握りしめたせいで力が入ってしまった。

「美貴!」

隣にいた二人が抱きかかえる。美貴さんは動かない。大変なことをしてしまった。

「逃げろ」

今までで一番速く走った気がする。見たことも無いような繁華街に来た時にはふらふらになっていた。