迷走女に激辛プロポーズ

「十月十日辞令が降りる。お前には妻として、秘書として、今後も側にいてもらう」

だが、と妖しげな笑みを浮かべ、耳元に唇を寄せ囁く。

「子供ができたら、一旦、仕事は辞めてもらうからな。分かったな」

エッと佑都の顔を見る。
ドキドキするような優しい眼差し。

「子供はすぐにでも欲しいが、お前との二人切りの時間ももっと欲しい。だから、避妊するのは一年間だけ、後は自然の成り行きに任す。いいよな?」

ストレートな言葉に戸惑いながらも、コクンと頷く。涙が湧き上がる。
佑都の大きな手が髪を撫で、そのまま強く抱き締める。

一生独身で生きていこうと思っていた。
まして子供なんて……夢にも思っていなかった。

佑都と知り合い、少しずつだが世界が変わっていった。
彼と家族になったら、小さな小さな世界は、もっと広がっていくだろう。

そこでもまた、様々なことで迷走するだろうが、きっと横を歩く彼が支え、一緒に考え、気付かせてくれるだろう。

進むべき方向も定まらず、なかなか結論も出なかった、こんな迷走女を五年も愛し見守り、プロポーズするぐらい大した男なのだから……。

プロポーズ……ん……アレッ? しばし回想する。
ちょっと待った! 正式にプロポーズした……? いつされた?

思い起こせば、『婚姻届』あれが始まりか?
あれから、私は迷走しまくった。
ある意味、苦悩付き纏う物凄い激辛プロポーズ?

イヤ、あれは違う。断じて違う、と思いたい。
中途半端に終わった『共に白髪まで』はプロポーズのプにもならない。
まともにされたのは、夢に出てきた吸血鬼佑都の針千本プロポーズ。

何てことだ! ハッピー・ビギン? ハッピー・エンドにもなっていないじゃないか!

お伽噺はこんな中途半端じゃないぞ!
全くもう! と小憎たらしい佑都の顔を見る。

ん? 寝ている……?

言いたいことを言い、満足したのだろうか、彼はスヤスヤ寝息を立て夢界に旅立っていた。

綺麗な顔……やっぱりこの顔が好きだ。

フフッと笑みが零れる。
額にかかる髪をソッと掻き上げ、長い睫毛を指先で少し持ち上げツンツンと鼻を突いてみる。

すると奴は猫のようにクシャッと顔を歪め「ウーン」と鼻を擦る。

普段見られない、私だけに見せる無防備な顔。
そのギャップに胸がトキメキ、キュンとする。

ハーッ、もう! 仕方がないなぁ、とニヤリと笑い、貴方からの正式なプロポーズの前に……と彼の頬にチュッとキスをし、迷いない言葉を奴の耳元で囁く。

溢れる愛を込め……。

「佑都、Will you marry me?」





【迷走女に激辛プロポーズ】
 ~The End~