迷走女に激辛プロポーズ

佑都? その場にいない筈の名が呼ばれる。

背中に人の気配を感じ、いきなり後ろから抱き締められる。
フワリと鼻をくすぐるグリンノートの香りに、ドクンと胸が鳴る。

「楓、ただいま」

耳に吐息が掛かる。肩越しに仰ぎ見ると、一週間振りに見る佑都の顔があった。
感動的なシーンのはずなのだが……。

私の口から出た言葉は……「ゲッ、何、その顔!」だった。

改めて佑都と向き合う。彼は左目を腫らし至る所に青痣を作っていた。
まるで勝負に負けたボクサーのようだ。

だが、こんな姿になっても、やはり彼は美しい。

「ああこれね、まず、爺様だろ、次に帝社長、アメリカで親父とお袋。お袋が一番激しかった! とまぁ、楓ファンクラブ一同からの愛の制裁」

楓ファンクラブって、何だ?

まぁ、それよりもだ、聞けば、この四人、各々、何かしら武道の有段者らしい。
誓う! この方々を、生涯、敵に回すまい!

で、指輪の一件とキスの一件を聞いた四人は、佑都に、もう一度、根性を叩き直す、とばかりに容赦のない鉄槌を加えたらしい。

それぞれの得意分野で……怖ッ!

ついでだが、佑都も合気道と空手は黒帯だそうだ。知らなかった。

クックッと笑いを堪えながら兄が訊ねる。
ちなみに兄も空手と柔道の有段者で、ボクシングとフェンシングを趣味で嗜んでいる。

もしかしたら、私も何か身に付けた方がいいのか……悩ましい……。