迷走女に激辛プロポーズ

職務に就いて半年、仕事にもようやく慣れた師走。
残業帰りのエレベーターの中、滅多に会わない佑都と一緒になった。

同じ部署に居るがお互い多忙の身。顔を合わせても交わす言葉は挨拶のみ。
だから、軽く頭を下げ、お腹空いたな、夕飯何にしよう、と考えていた。

ところが、その日は違った。いきなり佑都が声を掛けてきたのだ。

『大野木楓さん、貴女、俺と同じ匂いがします』

意味不明の言葉だったが、私の身体から男性臭がするのか、とクンクン自分の身を嗅いだ。

『……お前』

それを見ていた佑都は、いきなり私をお前呼ばわりすると、お腹を抱え笑い出した。

失礼な奴だ、と思いながらも、それは新鮮な驚きだった。
ジッと見つめていると、目に涙を浮かべ佑都が言った。

『見掛けはクールビューティー。だが中身は……真正天然。お前、可愛いな』

かっ可愛い! シレッとそんな言葉を宣う貴方様の方が天然だ、と言いたかったがグッと我慢した。その代わり、無意識に飛び出た言葉は『笑えるんだ』だった。

その小さな呟きを聞いた彼は、一瞬、目を見開き、そしてニヤリと笑いいきなり私の腕を掴んだ。

何をするのだ、とその手を見つめていると彼はこう言った。

『飯、食いに行くぞ』

あの日……。

どうして、大人しく従ったのだろう。
どうして、亡き婚約者の話をしたのだろう。
どうして、佑都は最愛の女性が胸に居ることを打ち明けたのだろう。

その理由は今も分からない。
だが、お互いの秘密を共有し合ったからこそ、私たちは飯友になれたのだろう。