全くこの男! 私は慌ててバスルームに飛び込みサッと化粧を直す。
戻ると、ダンディズム代表かと思える老紳士、イーサンが両手を広げ近寄って来る。

「オー、楓、おはよう。今日もとってもチャーミングだね」

私をハグし頬にキスをする。相変わらずスマートだ。

そして、フッとベッド脇に目をやると、その目を大きく見開く。
それから、ニヤッと笑うと、嬉しそうに叫び、私を強く抱き締める。

「オー、これで将来安泰だ!」

ん? イーサンの視線の先に目をやる。
そこにはゴミ箱いっぱいのティッシュの山。涙と鼻水を拭った残骸の山だ。

何が安泰なのだ、と首を捻っていると、佑都は吹き出しそうになるのを堪え、ゴニョゴニョと耳打ちする。

Oh! No! 久々のムンクの叫び!

イーサンは「そうか、そうか」と、ひとり納得げに頷き「二人とも、さあ、もっと精を付けに行こう!」と意気揚々と部屋を出て行く。

それから五秒後、私は我に返り叫んだ。
「イーサン、カムバ~ック! 誤解です」……と。