「おかえりなさいませ。久々の教会へのご感想は?」


帰るなり、シリウスが恭しく出迎えた。

その話し方はまるで、「あなたの心配していたような事は起きなかったでしょう?」と言っているように思えた。


「特に変わった事はなにも」


「それは何よりです。久々の教会で祈り方を忘れていては困りますからね」


私はそう笑いながら言うシリウスを後にして、部屋へ戻った。

ベイリーがうちへ訪ねてくるまで、数時間は待つ必要があった私は、暇を持て余さぬよう書類に目を通していた。

アーノルドのいない1日がこうも退屈だとは…。

しばらくしてからシリウスが部屋に入り、紅茶を運んできたので、私はつまらない書類整理を休憩した。


「昨日会ったカスバートン氏、とても良い方でしたね。おばさまの杜撰な計画には参りましたけど、また会うのが楽しみになりました」


ふと車両での彼を思い出し、シリウスにそう話しかけた。

なにしろ使用人以外の話し相手がキティしかいないと言ってもいいぐらい人間関係のない私だったから、彼はとても新鮮な存在だった。

その上、私とリチャード氏は、(向こうが気を使って私のレベルに合わせたのでないなら)話の馬がとても合う。


キティと話していると最終的には私に無縁な恋の話になってしまっていたのに。



「そうでしょうか?あまりいい人間とは思えませんでしたけど」



シリウスは少し困った表情でそういった。

私が覚えている限りだと、シリウスが彼を嫌う状況には一度もならなかったはずだ。



「そうですか。でも、どうして?」



「さあ?悪魔の勘でしょうか。
そもそも私は、お嬢様の気に入った男性などに興味がありません」



彼の言葉を聞いて、私は呆れんばかりに目を動かした。


そんな理由でいちいちいい人間かどうかの判断をされたら、いくら相手が面識の薄い悪魔といえどたまったものではない。

しかし、そうは言ったものの、悪魔の勘とシリウスが話す以上、彼が個人的にカスバートン氏を嫌っているからと言うわけではないようだ。


私は悪魔の考えなどわからないので、人間なりに悪魔の目線で考えてみた。

シリウスはまごう事なき悪魔だ。


その悪魔が善人に遭遇したら、それは「いい人間」にならないのではないだろうか。



「お嬢様、今、とても悪魔に失礼な考えをされていませんか?」