翌朝、私は珍しくもあまり早く起きることができなかった。

昨夜は手紙こそ書いたものの、特に夜更かしをしたような覚えはない。

きっと、眠る前に紅茶を一度も飲まなかったのが原因なのだろうと私は確信した。


シリウスにほぼほぼ無理やり起こされた私は、いつにも増して不機嫌極まりない。
まず、朝の新聞を読んだあたりからイライラしていた。


新聞の内容の一つが、フォスター社の社長が子供の女に変わったせいでベイリー社の敵になる可能性は無くなったというようなものが書いてあったからだ。

よりによってなぜ今日なのだろう。おまけに私が髪を結っていたことをダラダラと長ったらしく書いている。


-16歳という未熟な年齢で、Miss.フォスターは髪を貴婦人のように結んでいた。良識ある少女ならば、あと2年は待つだろう-


それ見たことか、と私はこの場にいないヴィル爺とシリウスへ自慢げに念じた。

とはいえ、たとえ私が髪を結んでいなかったとしても、この新聞には結局

"記者会見を開いておきながら髪を肩まで長く垂らす無知なその姿に、私は恐怖した"

などと書かれるのだろう。

私に挑発的な質問をしてきたあの記者が書いたのかはわからないが、愉快な気持ちにはとてもなれなかった。


着替えを済ませ、朝食を食べ終わり、不機嫌なまま教会へと出発した。

唯一楽しみにしていた悪魔の礼拝は案外あっさりと事が進んでしまっていたのが実に残念だ。


シリウスは屋敷の仕事を一人でするとわざわざヴァル爺に進言し、断る理由もないヴィル爺は承諾したらしい。

私の不機嫌さはさらに増した。

幸い、契約者の私は教会へ入っても何の影響もなかったので、そこだけは神に感謝した。

そしてついでに、たとえ相手が変態な悪魔であろうとも、私に二度とないチャンスを与えてくださったことも感謝し、そして祈った。

どうか私の復讐が、叶いますようにと。


私が熱心に祈るその様子を横目で見ていたヴィル爺は非常に満足したらしく、帰りはとても上機嫌だった。


どうやら私が面倒くさそうに祈る真似をするものとばかり思っていたらしい。

随分と失礼な話だ。


ヴィル爺が上機嫌でも私が上機嫌になることはなく、むしろヴィル爺に私の元気や気力を吸い取られたような気もした。