独り言のようにポツンとエルが呟いた。


取り逃がした自覚があったなら、
一人でも私の元へ普通来させるだろうに。


まさか、こいつらは私が強いとでも思っているのだろうか?


別に弱いと思われたいわけでもレディらしい華奢な女性と思われたいわけでもない。


しかし、私はけして強くない。

確かに一人殺したことは認めるが、
あれも一歩間違えれば死んでいた。


私は武闘から愛されているわけでも、
人間離れした超人でも、ましてや
人間ですらない悪魔でもない。

極々普通の人間だ。

「お前達の基準で私をみるな」と私は
言いたい。



「ええ、あと少しでベイリーに
良い知らせを聞かせてしまうところでした」



私は嫌味ったらしくシリウスとエルを
睨んだ。

エルはすぐさまばつの悪そうな顔をした。


シリウスは後ろを向いているので、
謝ることに関して期待はしていなかったが、その視線にすぐ気付いた。


が、やはり謝罪は期待していなかった。

案の定、シリウスは睨み返して嘲笑した。



「ナイフなど使わずに、ご自慢のバンシーのような歌もどきを客人へ歌って差し上げればきっと全員倒れたでしょうに……」



一体いつまで歌の話を引きずり
続けるんだ。


私は少し音痴なだけで、バンシー並の
金切り声のような歌は歌ったことがないし、歌えない。



「何もエルの前で自分の耳が悪いことを公表しなくともいいじゃないですか……」



「遂に現実逃避を始めましたか。

確かに私の耳は相当麻痺してきています。
あなたのレッスンを行っているせいで」



そう言ってから、シリウスは逃げ出そうとした男の胸ぐらを掴んだ。



「まあとにかく、その男が死なない程度で、
ご自由に遊んであげてください。

それだけ言いたかったので」



「かしこまりました」



シリウスが男を元いた場所にひょいと
戻すのを見届けた私は、扉を閉めて
ダイニングルームへ戻ることにした。


廊下を歩くと男の悲鳴がまた聞こえた。

きっと彼はフォスターの屋敷を襲った時点で生きても死んでも地獄なのだろう。

悪魔に拷問される事も変わらない。


運が悪かったな。

輪廻転生は信じていないが、もしあるの
なら次は全うな人生を歩む事を進める。


ダイニングルームへ戻ると、ヴィル爺が
待っていた。



「お怪我はないようですな。

しかし、呼んでくださいましたら
爺めが駆けつけましたのに……」



「切羽詰まった状態でしたし、
食事の邪魔をされた怒りもありましたから
どのみち自分の手で殺していたと
思いますよ」