全く、先代はなぜこんな悪趣味なものを作ったのだろう。

護身用に小さなナイフが出たり、煙草入れがついていたり、空気銃がついていたりなどはよくあることだが、長剣だなんて。



「フォスター家の人間はお嬢様を含め、
皆ユーモア溢れるセンスを
お持ちのようですね。

Mad nobles(狂った貴族たち)とでも
いいましょうか」



チッ…誰がmadだ!

こいつの無神経さにはとことんいらつく。


私の事をとやかく言うのは100億歩譲って
許すとして、我が一族を汚すような
発言は絶対に許せない。



私は振り替えって戻しかけていた長剣を
引き抜き、脅しのつもりでシリウスの
首もとに劔を向けた。



「フォスターの血を侮辱しないでください。
首のないまま執事を続けますか?」



まだ何か言うつもりなら本当に首を撥ねてやろうと思っていた。

心臓に杭を打ち、炎で炙っても平気だと
いうのだから、このぐらいどうって
ことないだろう。


気がすむまで切り刻んでやる。



「どうぞお好きに。

あなたの気が収まるというのなら、
首なり手なり、何でも差し出しましょう」



「素直に謝罪すればいいものを」



私は剣先を彼の首にゆっくりと
突き刺していった。

仮に人間にやっていたとしても
死ぬ程ではない。


首から一筋、赤い血がツーッと流れた。

その血が剣へと伝わり、私の鼓動は段々
早くなる。


空気が冷たく私たちを包んでいた
せいだろうか。

それとも、してはいけないことをしている
ような気がして背徳感に
入り浸っているからだろうか。


赤黒いその血は、私が力をいれる度に
ゆっくりと流れていた。

しかし、シリウスはひるむことなく、
ただ私を見つめ、ニヤリと北叟笑む。



「悪魔にも赤い血は流れているのですね」


「さあ?人間を欺く為のカモフラージュでもありますので」



シリウスは相変わらず北叟笑み、
私の目をしっかり捉えていた。

私の反応を楽しんでいるようにも思える。


そして、それは私も同様に、
シリウスの反応を楽しんでいた。

剣をしっかり握り、手を止めることなく
傷口を深くえぐり出していく。