確かに買いすぎだったかもしれない。
今の経済状況を考えれば。

だがそもそも、会社が倒産したとしても
私は貧困層と比べれば充分裕福に
暮らせる。


貴族としては貧乏だろうが、
普通の人間よりもましな暮らしだろうし
次の日の食事も困らないはずだ。



「次からはもう服を選ぶことも
そうないでしょう。」



私は早足で歩き、店に向かった。

店名と地図はヴィル爺に
教えてもらっている。


場所はドレスを売っていた店に案外
近かった。


ーーチリンチリン


ドアを開けるとヴェルが鳴った。



「いらっしゃ……ぃ。

これはこれは珍しい。若い女性の客が
来るとは。」



「これを。」



私は一枚の紙を店の主人に渡した。

ヴィル爺から受け取ったものだ。


店の主人に言い渡されたステッキの番号、
ステッキの種類、依頼内容……

よくもまあ、ここまで覚えていたものだ。



「えぇ……10352番は……。」



店の主人は奥へ行き、杖をとってきた。



「はい。1シリングってところかね。」
(当時の1シリングは、現在の日本円に
おいて約2000円)



私は2シリング、袋から出してステッキを
受け取った。

代々受け継ぐものだけあって、
作り方が凝っている。

我がフォスター家の紋章でもある
鷹の彫刻が持ち手になっていた。

(意外にもこれが持ちやすい。)


鷹の紋章は、冷血、残忍、狡猾など、
あまりいい意味のある象徴ではない。

しかし、悲しい哉、代々フォスターの
血筋は冷血だ。

鷹の紋章を
授かるにはピッタリな家だった。



「これの持ち主、亡くなったんだとね。
新聞で見たよ。

経済が盛んな今、なにかと物騒な事が
起こるものだ。」



「…………」