「好きにほざいていてください。

これを買ったら、
ステッキを受け取りにいきます。

どうやらお父様はステッキの修繕を頼んで
いたそうですから。」



ステッキは、フォスター家の当主が
代々受け継いだものだそうだ。

ヴィル爺がいっていた。


本当なら処分するところだが、
代々受け継いできたものなら仕方がない。



「しかし、サイズが合わないでしょう?

お嬢様、ヒールで背を高くして
いらっしゃいますが、そんなに高く
ありませんから」



失礼な。
ヒールが高いだけで至って平均な身長だ!

お父様が高すぎるだけだ。185だなんて……
(まあ、シリウスほどではなかったが)


要するに、身長的な面はお母様の
血が流れていると言うことだろう。



「サイズの問題なら、お父様がいつも
短くて困っていましたし。

丁度とは言えないかもしれませんが
そこそこ使えるでしょう。」



それに、あのステッキは、体を支える
以外にも色々な役割があるからな。

自然に私の口許がつり上がった。


シリウスは敢えてなにも言わなかったが、
目がこういっていた。

『気持ち悪いですよ』と。



「主に向ける眼差しではありませんね。」



私はそう言い残し、店のものに
金を払った。


値段は大したことない。


せいぜい1、2ポンドだ。
(ヴィクトリア時代の1ポンドは現在の
日本円で大体4万円辺り)



「派手に買いましたね。」



店を出て早々にシリウスは呟いた。



「碌な服がないんです。

服ぐらい高い買い物をしたってバチは
当たらないでしょう?」



「もう既に私と契約している時点でバチが
当たっているようにも思えますが……」



本当に、幸か不幸か分からないな。
こいつとの契約は。

悪魔と契約した事も、契約内容も
悪くはないし、ある意味幸運だが……


その悪魔がシリウスだと言うのが人生
最大の不幸だ。

あぁ、いや、人生最大の不幸は私の家が
沢山の血で“賑わった”ときか。



「まあそんなことよりも問題は、
買いすぎです。」


シリウスは呆れた顔で荷物に
視線をやった。

ドレスのはいった袋がふたつ。

入っているドレスは両方とも4着。
計8着だ。