それはシンプルなデザインの缶タイプのペンケースで形は長方形、色が数種類あるだけの素っ気ないものだった。
ただ、シンプルなデザインだからこそみんなが使い出した。
ある人はペンケースの表面にシールなどを貼ってデコレーションをしたり
ある人は針などで表面に傷をつけロゴやイラストを描いたりしていた。
そういった他人のオリジナルのペンケースを見た他の生徒たちは自分も…といった感じに次々と買っていき、やがてオリジナルのペンケースを使っている者はクラス全体の約8割を占めるまでになっていた。
私もその中の1人だった。
どういう風にアレンジをしようか
それを考え出したらそれだけで楽しかった。
他の人のペンケースを見て出来るだけ他の人とは違う、誰にも真似のできないものを作ろう…
私はノートを1冊購入しアイディアをイラストや文字にして書き出していった。
アイディアを練りだして何日経っただろう…
「…できた!」
とうとう私だけのオリジナルペンケースが完成した。
完成したものはペンケース本体に可愛らしいロゴを彫り、小さめのリボンやシールを貼ったデザインのものだ。
大きくて嵩張ることもないし、何より私好みで可愛い。
そして何より、自分で彫ったロゴマークには少しのミスもなく完璧な仕上がりだった。
私は早く友達に見せたくて完成した次の日に誰よりも早く学校に来て待っていた。
「〜♪」
上機嫌で他の生徒を待っていると徐々に人は増えていった。
『すごーい!』
『やり方教えて!』
人が増えるにつれてそんな妄想が膨らむ。
実際にこれを見た友達はどんな反応をするか
私に対してどんな風に接してくるか
そんなことばかりが頭に思い浮かびそれを全て自分の都合のいいよう考えてしまう。
自分が
『すごい』
と褒められ、その一言がきっかけに周りに人が集まりだす。
会話が弾み友達が増える。
もはや私の頭の中にはそれでいっぱいになっていた。
…けど
現実はそううまくいかなかった。