見えちゃうけど、好きでいて

勢いよく耳をふさいだため、ヘッドホンが後ろの席に落ちてしまった。

「あ…ご、ごめんなさい……」

振り返り落ちたヘッドホンを手に取ろうとした。

「ん」

ぶっきらぼうに、ヘッドホンを季衣に渡した男の横顔はスマートで、きれいに整った顔立ちだった。

季衣は、黙ってお辞儀だけして受け取った。

その時少し指が男の手に当たった。

男は、何事もなかったかのように、向き直り食事を始めた。