朝、俺よりも早く家を出なくてはいけない美優を見送り、朝食を済ませて家を出た。

家から高校まではさほど離れておらず、歩いて行く事に決めていた。

朝と言っても八時を過ぎれば、太陽はさんさんと熱を送ってくる。

夏特有の、あの朝の涼しい空気を味わう事は出来なかった。

蝉の大合唱が耳に煩く、暑さを何倍にもさせた。

ただ、たんぼに囲まれたこの道は風の通りが良く、サワサワと揺れる稲が清々しさを与えてくれる。


学校が近くなってくると、同じ制服を着た生徒達を追い越す数が多くなってくる。

その中に、まだ転校してきて二日目だというのに見知った顔を見付けた。

「よう、小野田」

俺がそう言って後ろから声を掛けると、小野田は眠そうな顔をして挨拶を返してきた。

どうやら学校へはバイクで来ていないらしい。


購買で大量の教科書を購入し、小野田にその半分を分けてやった。

二人で教室に入ると、クラスメート達が挨拶をしてくれ、隣同士に座っていた葉月と藤本も、俺達を呼びながら手招きした。


たんぼが広がるこの田舎町も、明るく気さくなクラスメート達も、俺はとても気に入っていた。