――バタン


「帰ったぞ糞女」


一鬼が家に帰ると、リビングから二人の声が聞こえてきた。



「――あなた、カズちゃんったらまだ私を『ママ』って呼んでくれないのね…」

「なに、一鬼!!貴様ママを泣かせたな!!!」



「……いい歳した男がママなんて呼ぶかよ」



「……ママ、一鬼はまだ反抗期が終わってないみたいだから許してあげよう」

「そうなのカズちゃん?」




「……ゴメンナサイお袋、親父」



一鬼、地獄で恐れられる鬼といえど、この両親には勝てなかった。



「で、何の用だよ」

「用がなきゃ電話しちゃいけないの?カズちゃんのいけずぅ」

「仕事中には止めろ、イタ電なら」

「もうっ。カズちゃんは仕事とママどっちが大事なの?」

「僕はママが1番大事だよ」

「パパ………」




…………一鬼はそっと、二人に背を向けた。
帰ろう。職場に。

そういえばこの家にいるのが嫌だったのも、仕事を辞めない理由の一つだった。