「榊」
「はい?」
彼の声に答えただけなのに、くくっと笑われた。
「百面相してたぞ」
「え」
びっくりして目を見開く。
「何思い出してたんだよ」
なおも笑い続ける彼に、顔がかぁっと熱くなるのがわかった。
はずかしいっ‥
でも、彼が声を上げて笑うのを初めて見た気がする。
恥ずかしいのと、彼の笑顔を見れたこととで二重に顔が熱い。
二人しかいない小さな部室。
今彼の笑顔を見ることができているのは私だけだ。
「‥そんなに笑わなくてもいいじゃないですか」
内心の嬉しさを隠して、わざと言う。
今だけは。
彼の笑顔を独占できている。
「くくっ‥おまえ、ポーカーフェイスの振りして、すぐ顔に出るよな」
「そんな振りしてません。顔にも出てません。」
「今すでにむくれてんのが顔に出てんぞ」
「‥‥」
からかいを含んだ彼の言葉にさえ、むくれた顔が緩みそうになるのがわかる。
そうなってしまう理由は、もう知っている。
一日で一番幸せな時間はドアがガチャリと開けられた音であっさりと幕を閉じた。
「うわ、珍しい。深澤が笑ってる」
見知った顔が驚いた顔で入ってきたとたん、深澤さんがいつもの無表情になって口をつぐんだ。
「瀬川さん」
「‥‥おまえと並んでると一層榊ちゃんが天使に見えるな」
ニヤニヤ笑いながらの瀬川さんの台詞に、一瞬不機嫌そうに深澤さんは眉をひそめた。
「そうそう、榊ちゃん、今夜暇?」

