何処をどう歩いたかは覚えていない。

 気がついた時には雑居ビルの裏手にある、錆び付いた非常階段に腰掛けていた。

 『大丈夫?』

 「ああ……」

 殴られた事でも、華崎さんを傷付けた事でもなく、日之輪さんと視線が交わった瞬間の事を考えていた。

 「マコト……」

 『何?』

 「日之輪さんと目が合った瞬間、日之輪の声が聞こえたんだ……」

 『うん、僕も聞こえた……』