結局僕が家に帰り着いたのは七時を少し回った辺りだった。

 玄関を開けて、ワンルームの真っ暗な部屋に明かりを点ける。

 「ただいま」

 僕は一人暮らしなので、空気を振動させて

 「お帰り」

 なんて言ってくれる人はいない。

 『お帰り、今日もお疲れ様』

 頭の中に声が響く。

 空気を振動させて鼓膜に伝わる声ではない。

 だが、僕には「お帰り」と労いの声をかけてくれる『人』がいる。