「相澤君を本気で想うなら、他人を当てにしちゃダメ」

 由里子さんは真っ直ぐにわたしを見据えた。

「男の世界は所詮、女には理解出来ないの。男だってね、理解されたい訳じゃない。そこに居て、少しでも嫌なことを忘れさせてくれる癒しを求めてるんだと思う。それは時には心の繋がりだったり、躰の繋がりだったり、相手が求めるものを見極めるのは女の役目でしょ? だからね」

 いったん言葉を切って、力強く微笑む。

「織江ちゃんは、相澤君の同級生に頼ったりしちゃダメなの。相澤君が帰る場所は織江ちゃんだけにしなくちゃね。・・・ずっとそうで居られるかは、もちろん女次第なのよ?」

 彼女の言葉はわたしの中にストンと落ちて。心を蔭らせていた靄まで一息に晴らしてしまう。
 渉さんが何か危険で大変な事態を抱えてるんじゃないかと、心配なあまり。自分がどうしていいのかばかりを考えて、空回りしていた事に気が付いた。
 わたしが、じゃない。渉さんの望みは何か、なんだわ。

 由里子さんに掬(すく)われて、ずいぶん気持ちが楽になった気がした。やっぱり大人なんだな、って感心する。・・・羨ましいとも思う。
 まだまだわたしは子供で。渉さんに追いつきたいけれど、どんなに背伸びをしてみても埋まりようが無い。目線だけでも彼が見ている未来(さき)を追いかけて。方向を見失わないでいよう。ふと、そう思った。 

「・・・そうですよね。有りがとう由里子さん。ちょっと元気出ました」

「元気? 無かったの?」

 言葉尻を捉えて彼女が視線を傾げる。・・・失敗した。別に悩み相談をしてた訳じゃ無かったのに。由里子さん鋭いから誤魔化せないかも。

「あ・・・いえ。なんか一人で色いろ考えちゃっただけで」

 笑顔で取り繕う。

「織江ちゃん」

「はい」

「相澤君に電話していい?」

「だっ、駄目ですっっ、絶対だめですっ!!」

 思わずイスから立ち上がり、こぶしを握り締めて必死の形相になっていただろうわたしに。由里子さんは大きく吹き出しケラケラと笑う。ひとしきり笑って収まると、ニンマリとして言った。

「はい。じゃあ何があったか、お姐さんに隠さずぜーんぶ白状しなさいね?」
 

 ・・・・・・・・・ある意味、渉さんより怖いです、由里子さんは。