「それより織江さん、家族旅行ってどこ行ったんですかぁ?!」

 次の日。休みは野乃ちゃんで、果歩ちゃんと牧野君にはいきなりの連休を平謝りした。 
 どうやら由里子さんは、急な家族旅行に誘われた事にしてくれたらしい。取り敢えず話の辻褄を合わせておく。

「温泉にね一泊で。お、父さんが急に言い出して、ほんとにごめんね。その、なかなか家族で休みが合わなくて・・・」

 ・・・渉さんゴメンナサイ、お父さん扱いで。こっちも内心で平謝り。

「温泉いいなぁ! 露天風呂ありましたぁ?」

「あーうん、お部屋が露天風呂付きだったから」

「うわ、あたしもソウタと行きたいなぁっ」

「あ、でね、これお土産。大したもんじゃなくてごめんね。あとお菓子も買ったんだけど、そっちは宅配便で送ったから待ってね」

 由里子さんは明日、お店に顔を出す予定だから日時指定で送ってもらったのだ。

「ありがとう織江さん! わ、ナニこれ可愛い~っ」

 果歩ちゃんが紙包みを解いてチャームを手に、感嘆の声を上げてくれる。

「・・・色違いスか」

 牧野君も物珍しそうに眺めていた。

「お土産屋さんで一目惚れしちゃったの、それ。で、色違いでみんなにね」 

 簡単に言えば、ステンレス素材のイニシャル入りプレート型チャーム。魔女の宅急便に出てくる黒猫のイメージが一番分かりやすいと思うんだけれど、こう前足だけ立てて座っているあのシルエットでプレートになっていて。首の鈴の代わりに、綺麗な色の石の玉が付いている。
 果歩ちゃんには桃色、野乃ちゃんには檸檬色、牧野君には瑠璃色を選んでその場で名前のイニシャルを彫ってもらったのだ。

「さっそくバッグに着けますね~っ」

 果歩ちゃんが嬉しそうにバックヤードに消える。
 仕事始まってんだし後でいいのに、と牧野君がボソッと呟いたから、そこはわたしもかなり同感。

「・・・旅行って、あのひとと?」

 目が合って。
 牧野君には隠しても無駄かな。

「ん・・・まあ」

「楽しかった?」

 彼の視線に悪意は無い。だからわたしも素直に答える。

「うん」

「・・・良かったね」

 見守るような、そんな眼差し。
 牧野君はわたしへの気持ちを二度と口にしなくなった。けれど。こういう時にひしと感じる。彼はまるで、触れずにわたしの上に大きな傘を広げ続けているような。

 ・・・間もなく彼はこの店を離れる事になる。
 いつか。薄れてゆくわ。
 君が抱いた恋情は思い出と一緒に。
 
 そう願ってる。心から。
 君の為に。