着る色が違えば。誰もが渉さんを、他者から恐れられる存在だと認識する。・・・滑稽に思えてしまう。高級なスーツを着こなし、上等な外国製の革靴を履いているから。社会の成功者のように映っているだろうという現実は。
 彼は。わたしにとっては。極道という道を征くだけのひと。ただそれだけの最愛のひと。闇色を纏う彼とでも、寄り添ってこんな風に歩きたい。けれど。渉さんはそれを望まないでしょう。

 隣りを歩く彼の横顔を、そっと見上げる。気配に敏(さと)い貴方と視線が合う。・・・ほら。目を細めるいつもの癖。どうした?、・・・って。これをされるのが一番弱い。
 勝手に目元と頬に熱が集まって来て。・・・ああどうしよう。なんかとても。今すぐ渉さんに触れられたい・・・・・・。端(はした)ない気持ちになって目を伏せる。浮かれすぎだわ、・・・わたし。

「織江」
 
 変わらない声音だったから普通に返事をしようとして。肩に回された腕に力が篭もり、躰をぐっと引き上げられた。
 気が付いた時には、口の中が隙間なく埋まっていた。苦い何かが広がったのは多分、煙草のせい。こんな人の往来がある場所で。陽差しの下で。きっと後ろを歩く藤君は、呆れて他人の振りをしている筈。

 冷静なんだか焦っているんだか、分からない内に離された。 
 ぼうっと思考回路を寸断されているわたしに、渉さんは上から不敵な一瞥をくれる。

「・・・俺を煽る時は、それなりの覚悟をしろと云っただろう」




 車に戻った渉さんは、わたしをお姫様抱っこの恰好で自分の膝の上に乗せ。自分はスマートフォンを操作したりしながら、ただ抱き込んで、高速道路を降りるまで片時も放してくれなかった。
 藤君も坂下さんも見ない振りをしていたと思うけれど。心臓が破裂しそうに恥ずかくて、本当に居たたまれなかった。
 いったい何の罰だったんでしょう・・・?