9時には迎えが来る、と渉さんに言い渡されて朝食の後はもう、時間との勝負みたいになる。
目的地が分からないから正直、服をどう選ぼうかすごく悩んだ。ドレスコードがあるような場所では無いと思うのだけれど、あんまりカジュアル過ぎても。ましてここよりも寒いのか、暖かいのすら。
迷った挙句。オフタートルの白のニットに、紺色のボレロ風ジャケット。バーバリー柄の巻きロングスカートとショートブーツに決める。首元からネックレスを覗かせれば、それなりの場でも通用する筈。
自分の部屋でメイクも済ませ、髪は、銀色の透かし模様の飾りが付いたヘアゴムでハーフアップにした。
時間ギリギリに、二人分の着替えを詰めた中くらいのボストンバッグとお財布なんかを入れたショルダーバッグを手に、部屋からリビングへと出る。
「ごめんなさい、遅くなってしまっ・・・」
ソファの脇に、スーツ姿の渉さんが立っていた。
普段からあまり、カジュアルな恰好をしないのは知っている。寛いでいる時でも、シャツにスラックスか綿のパンツというスタイルが多い。
行き先がどこであれスーツかも知れない、とちょっと予想はしていたけれど。ある意味それは、大きく外れていた。いつもみたいなダーク系じゃなく。白いワイシャツにチャコールグレーのスリーピース。
肩幅もあって、すごくスーツの似合う体形のひとだとは思っていた。もともと人の上に立っている風格だとか、でも何ていうか、想像以上に知的な雰囲気が漂っていたりだとか。どこからどう見ても。大企業の取締役的な紳士にしか見えない。
そしてネクタイは、わたしがバレンタインの時にプレゼントした、あのミントグリーンのネクタイだった。
呆然と、渉さんの姿に目を奪われて言葉も無いわたしに。
「・・・お前、そのリアクションはどっちだ」
と、溜息雑じりに不本意そうな表情を向けられる。
ああ・・・そうなんだ、と今やっと。渉さんがこうして時間を作ってくれた理由。
バレンタインのお返し。ホワイトデーのプレゼントなんだと初めて気付く。あのネクタイをして、わたしと一緒に外を歩けるように。渉さんの・・・気遣い。いつもは着ない色のスーツで。わたしの為に。
胸がいっぱいになって、本当は泣きそうだった。
ただただ嬉しくて、切なくて切なくて。
「もう、反則ってくらい・・・恰好良すぎです」
潤んだ目を隠すように、心からの感謝を込めた微笑みを返すと。
「やっぱりそういう色、似合いますね、渉さん」
素直な気持ちで言えた。
静羽さんとわたしは。・・・魂のようなものが近かったのだろうか。
同じひとに惹かれて、同じように感じて。
貴女の心残りが・・・わたしと渉さんを出逢わせたのでしょうか。
渉さんは一瞬、わたしを深く見つめた後。
そうか、と彼にしてはずい分と儚げな笑みを滲ませたのだった。
目的地が分からないから正直、服をどう選ぼうかすごく悩んだ。ドレスコードがあるような場所では無いと思うのだけれど、あんまりカジュアル過ぎても。ましてここよりも寒いのか、暖かいのすら。
迷った挙句。オフタートルの白のニットに、紺色のボレロ風ジャケット。バーバリー柄の巻きロングスカートとショートブーツに決める。首元からネックレスを覗かせれば、それなりの場でも通用する筈。
自分の部屋でメイクも済ませ、髪は、銀色の透かし模様の飾りが付いたヘアゴムでハーフアップにした。
時間ギリギリに、二人分の着替えを詰めた中くらいのボストンバッグとお財布なんかを入れたショルダーバッグを手に、部屋からリビングへと出る。
「ごめんなさい、遅くなってしまっ・・・」
ソファの脇に、スーツ姿の渉さんが立っていた。
普段からあまり、カジュアルな恰好をしないのは知っている。寛いでいる時でも、シャツにスラックスか綿のパンツというスタイルが多い。
行き先がどこであれスーツかも知れない、とちょっと予想はしていたけれど。ある意味それは、大きく外れていた。いつもみたいなダーク系じゃなく。白いワイシャツにチャコールグレーのスリーピース。
肩幅もあって、すごくスーツの似合う体形のひとだとは思っていた。もともと人の上に立っている風格だとか、でも何ていうか、想像以上に知的な雰囲気が漂っていたりだとか。どこからどう見ても。大企業の取締役的な紳士にしか見えない。
そしてネクタイは、わたしがバレンタインの時にプレゼントした、あのミントグリーンのネクタイだった。
呆然と、渉さんの姿に目を奪われて言葉も無いわたしに。
「・・・お前、そのリアクションはどっちだ」
と、溜息雑じりに不本意そうな表情を向けられる。
ああ・・・そうなんだ、と今やっと。渉さんがこうして時間を作ってくれた理由。
バレンタインのお返し。ホワイトデーのプレゼントなんだと初めて気付く。あのネクタイをして、わたしと一緒に外を歩けるように。渉さんの・・・気遣い。いつもは着ない色のスーツで。わたしの為に。
胸がいっぱいになって、本当は泣きそうだった。
ただただ嬉しくて、切なくて切なくて。
「もう、反則ってくらい・・・恰好良すぎです」
潤んだ目を隠すように、心からの感謝を込めた微笑みを返すと。
「やっぱりそういう色、似合いますね、渉さん」
素直な気持ちで言えた。
静羽さんとわたしは。・・・魂のようなものが近かったのだろうか。
同じひとに惹かれて、同じように感じて。
貴女の心残りが・・・わたしと渉さんを出逢わせたのでしょうか。
渉さんは一瞬、わたしを深く見つめた後。
そうか、と彼にしてはずい分と儚げな笑みを滲ませたのだった。