夜は藤君も部屋に居たし、寝室は廊下を挟んだ向かいだし。渉さんも加減って言葉は知っていると思うのに。
 「声を漏らすなよ」と容赦なく命令されて、わたしは自分で自分の口を塞いで悲鳴を殺さなくてはいけなかった。
 鎮まった躰を寄せ合い、とても満足げに渉さんはわたしを腕枕に抱き込んでいる。さっきまで、わたしの四肢を囚(とら)えて離さなかったその力強さとは違う、包(くる)まれるような安心感を抱かせてくれる腕。
 羽毛布団のふんわりした暖かさにも誘われて、いつの間にか深い眠りに沈み込んでいた。
 





 目が醒めた時に渉さんはもう隣には居なかった。
 慌ててベッドのサイドテーブルの上に置いた、スマートフォンで時間を確認。7時16分。うう、7時には起きようと思っていたのに。そのままバスローブだけ羽織って、取り敢えずリビングに顔を出す。
 ルーフバルコニーから差し込む朝日が広がる、晴れやかな初春の朝。

「おはようございます渉さん。藤君」
 
「ああ」

 渉さんもまだ乾ききっていない髪のまま、バスローブ姿でソファで新聞に目を通していた。

「早く済ませろよ」

「はぁい」 

 お行儀が悪いけど、スリッパをパタパタと鳴らしてバスルームへ。
 キッチンからは焼き魚の香ばしい薫りがしていた。待たせると藤君に睨まれちゃう。
 わたしは思い切りコックを捻って、遠慮なく頭から熱いお湯を被った。