あとで由里子さんにお詫びのラインと、しばらくは休日返上の悲壮な決意を固めたわたしに、渉さんは全く気にもしない様子であっさりと言う。

「明日の朝から出るから、そのつもりでいろ。一泊だ、余計な荷物は要らんぞ」

「あ、はい」

 泊りがけでどこへ。何気なく目線で探ってみたけれど、渉さんは明かす気が無いみたいだった。 

「藤」

 対面式キッチンの向こう側にいた彼にも声が掛かる。

「車は坂下に出させる。お前も来い」

「・・・承知しました」

 返事をして手元を片付け、藤君は自室に戻って行った。

「じゃあわたしも用意しますね。渉さんのはどうしましょうか?」

「俺は替えだけでいい」

 取りあえず、靴下と下着。自分のと合わせて、手頃な旅行向きのバッグはどれかを考えながら。
 普通に考えたら強引なんてものじゃなくて。由里子さん達には申し訳ない限りだけれど。本当は、渉さんが一緒にどこかへ出掛ける時間を作ってくれたのが、何よりも嬉しい。

 もちろん果歩ちゃんとソウタ君のように何の気兼ねもなく、どこへでも連れ合える関係に憧れはある。それよりも。渉さんが合い間に割いてくれる時間には、比べるものが無いぐらいの大切な重みがあるから。そこに全部、込められるから。
 どんなに短い逢瀬でも、こんな風に出掛ける機会が二度と無くても。“普通”じゃなくても、貴方がいい。