「・・・連休、ですか?」

 唐突に渉さんが、休みを取れと言う。

 3月は、ホワイトデーよりもイースターを主役に考えているから、今の時期ならそれほど忙しくはない。けれど。わたしは答えあぐねていた。
 ある程度の責任を持たされている立場で、続けて店を不在にするのはどうしても気が引ける。一方で。牧野君が居てくれる今なら、という計算も働く。

 見事に黙りこくってしまったわたしに刺さるような一瞥をくれて、渉さんは冷たく言い放った。
 
「俺と仕事とどっちが大事だ、お前は」

 ・・・・・・・・・。
 この選択を、まさか自分に突き付けられる日が来るなんて。

「あのじゃあ、由里子さんに相談・・・」

「俺が話す」

 にべもない。
 煙草の火を灰皿で揉み消しスマートフォンを手にすると、ソファの背もたれに片腕を回し、大仰に寄りかかって由里子さんに電話を掛けた。

「・・・ユリか。織江を木曜まで休ませる。そっちはどうにかしてくれ」

 どうにか。・・・って。無茶苦茶です、渉さん・・・。
 果歩ちゃん、野乃ちゃん、牧野君の顔が順に浮かぶ。シフトをずらさないとお店が回らない。誰かにしわ寄せが行く。ううっ、皆んな、ごめんね。由里子さん、本当にごめんなさいっ、わたしじゃ止められません・・・・・・。
 心の中で一生懸命、誠心誠意、謝り続ける。
 
「この間の貸しだ。悪く思うな」

 最後は不敵な笑みを浮かべて。
 きっと一方的に話を終わらせたに違いなかった・・・。