わたしが渉さんの亡くなった奥さんに空気感が似ていた、・・・という由里子さんの言葉があれからずっと、頭の中を霞のようにぼんやり漂い続けている。

 由里子さんの依頼でストーカーからわたしを守ってくれた渉さん。
 忘れろと云いながら、交わしたキスは容赦がなくて・・・熱を熟んでいた。
 わざと煙草の吸殻を残してわたしを翻弄して。
 次に現れた時には、心は全部くれると云った・・・・・・。
 
 静羽さんに捧げた渉さんの心の、・・・ほんの残りを全てわたしに、という意味だったのかも知れない。
 わたしを抱きながら、静羽さんの手触りを・・・、彼女への愛おしさを思い出して確かめているのかも知れない。
 彼女にしてあげられなかった後悔を、わたしを身代わりに贖罪を果たしているのかも知れない。

 

 醜い感傷がきりなく湧き上がる。
  
 求めてしまうから。
 わたしだけをと、望んでしまうから。
 心が膿むの。

 思い出して、織江。
 アナタは渉さんの為だけに、生きて死ぬの。
 彼が求めるままに在ればいいの。
 愛玩品でも代用品でも、彼がわたしに望むなら。 

 それが“愛”だというのなら。



 渉さん・・・・・・。
 貴方は一度もその言葉を。口にしていない。