「由里子さん」
 
 話がひと段落ついて、迷ったけれど思い切って口に出してみる。

「・・・その、静羽さんの事、・・・訊いてもいいですか」

 わたしからその名前が出て来るとは考えても無かったのか、彼女は愕然とした様子で。
 間を置いてから、「・・・相澤君、話したんだね」と呟く。

「6年前に事故で、・・・お腹の赤ちゃんも一緒だったと聴きました・・・・・・」

「うん。・・・そう」

「静羽さんの事は由里子さんが知ってるから、って渉さんが」

「静羽も同級生なのよ。中学の時のね」

 寂しそうに笑い、由里子さんは、静羽さんが美術部で特に工芸が得意だった事などを話してくれた。

「昔っから大人っぽい子で、大勢とわいわい騒ぐタイプじゃ無かったのね。・・・ちょうど10年前だなぁ、同窓会があってね。それがきっかけで・・・すぐ同棲始めたらしくて、いつの間にか籍も入れててね。こっちがびっくり」

 その頃からすでに極道(みち)に外れていた渉さんと、アクセサリーデザイナーとして駆け出し中だった静羽さんが、どう人生を重ね合おうと決めたのか。
 けれど二人はとても静かに互いを想い合っていた、と由里子さんは言う。

「・・・火葬場でね、相澤君はずっと空を見てた。静羽は家族と疎遠だったみたいであたしと二人でね、あの子を見送ったの。・・・11月7日が命日。もしその気があったら、織江ちゃんも会いに行ってあげて? 場所おしえるから」

「行きます。必ず」

「喜ぶと思う、静羽も」

 わたしを真っ直ぐに見て、それから少し弱ったように細く笑みを浮かべた。

「きっとこれ言うと、相澤君に怒られるんだろうなぁ・・・」

 ごめんね織江ちゃん、と空(くう)を仰ぐ。

「・・・・・・織江ちゃん、静羽に似てる。顔とかじゃなくてね、持ってる雰囲気っていうのかな・・・。壊れそうで壊れなくて・・・細くて折れそうなのに、どっかしなやかで」
  


 
 愛していたから。
 忘れられないほど愛していたから。
 
 貴方はわたしに面影を見たのでしょうか。
 今も。見ているのでしょうか・・・・・・。