「あんたも仕事だろ。・・・ほら弁当」

「あ、有りがとうございます。藤代さん」

 昨夜は外泊だったのに、7時半のアラームで目が覚めたら藤代さんはもうキッチンで朝食の用意にかかっていた。
 しかも近頃は、わたしのお弁当作りまでしてくれて。
 気に喰わないのは相変わらずの様子だけれど、以前よりは喋ってくれるしそれほどつっけんどんでも無くなったように思う。
 作ってくれる理由を恐る恐る訊いてみたら。

『若頭代理が、あんたの肉付きが悪いって。まるでオレが喰わせてないみたいだろ』

 横目で睨まれたんだったわ。胸の内で苦笑い。

「先に車に行ってるから、戸締りちゃんとして来な」

「はぁい」

 同い年なんだけど、お兄さんみたい。




 地下駐車場から通りに出て、余程の渋滞に捕まらなければセルドォルまでは15分ほど。
 藤代さんの車は、そう大きくもない黒のスポーツタイプなんだけれど。ルームミラーにディズニーキャラクターのマスコットが吊るしてあったり、シートカバーもミッキーだったりして、多分知らない人が見たら女の子の車だと絶対に勘違いする。

 本人には訊けないけれど、男のひとが好きって事は・・・心が女の子に近いってこと? 友達になれないかな、って淡い期待を抱いている。

「帰りはいつもの時間でいいの?」

「はい、大丈夫です。いつも有りがとうございます」

 後部シートのわたしはルームミラー越しで彼に笑顔を返した。 

「あのさ」

 どちらかと言うと線が細くて、キツネ顔だけれど童顔・・・の藤代さんがミラーでこっちを見た。

「はい?」

「その敬語、要らないし。さん付けもナシにしてくんない? 藤(ふじ)でいいよ」

「えぇと・・・。藤、・・・君?」

「・・・いいよ、それで」

 ぶっきらぼうな返答。
 それなら、とわたしも提案。

「じゃあわたしも、名前で呼んでくれます?」

「はぁ?!」

 バカじゃねーの、と即却下された。