翌朝。いつもの運転手さんが玄関先まで迎えに来て、わたしも見送りに出る。

「いってらっしゃい。・・・気を付けて」

「・・・ああ」

 短い返事と、軽いキス。いつものように。唇がいったん離れた、と思ったらもう一度。今度は押し広げるように嵌まって深いキスを繋げられた。頭の後ろをホールドされて、いつまでもいつまでも。
 藤代さんと運転手さんの前でたっぷり5分は続けた頃に、漸(ようや)く。

「・・・・・・若頭代理。その辺で」

 運転手さんの冷めた声が背中から。
 離れがたいのは渉さんも同じだったら・・・すごく嬉しい。目が合って最後の一回。
 それから、少し遠い眼差しで低く言った。

「・・・静羽(しずは)の事はユリに訊け。アイツも知っている」
 




 渉さんは。答えの代わりに、わたしを朝まで抱き尽くした。
  
 今までどこか曖昧だった輪郭が、漸(ようや)く見えて来たような。
 手を伸ばして。
 掴まえて。

 辿り着きたい。
 
 そこへ。
 叶うなら。・・・その先へ。