ソファからベッドに移って、更に啼かされた後。
 渉さんの腕枕に収まって少し微睡んでいると、「ところで織江」と頭の上で声がした。

「はい・・・?」

 頭だけ起こして向くと、何となく不機嫌そうな、・・・というか不満気な色が顔に浮かんで見える。
 思い当たる節も無く慌てて、「わたし何かしましたか」と躰ごと起き上がった。枕元に正座までして。

「今日は何日だ」

「2月16日です」

「お前、・・・何か忘れてるだろう」

 遠慮なしに睨め付けられた。
 思わず。
 可愛い。・・・と思ってしまった事は永遠に秘密。
 藤代さんの前だとか電話だとかは、やっぱり他人を意識しているのか感情を表立たせないし、割と寡黙だ。
 けれど二人だけの時は見せてくれる表情が少し違う。それがとても嬉しくなる。
 渉さんの不機嫌の理由がバレンタインだとすぐに判って、普通に欲しいものなんだと妙に感心した。・・・これも言えそうもないから秘密。

「あの、渡すタイミングをちょっと外してしまって・・・。ちょっと待っててください・・・っ」

「寒いから俺のを羽織っていけ」

 ベッドから降りようとすると、渉さんがベッド脇の籠に放り込んだ自分の黒いシャツを寄越してくれる。
 もうすっかり憶えてしまった煙草の匂い、それと淡い香水の香り。
 大きくて、・・・包まれてる感じがすごく安心する。
 渉さんが留守の時、こうしてたら寂しくないかしら。
 そんな事を思い付いた自分が、ちょっと恥ずかしくなった。