通話の切れたスマートフォンを由里子さんに手渡す。彼女は、わたしを見つめて小さく吐息を漏らした。

「・・・あのね、織江ちゃん」

「・・・・・・はい」

 もう。何を云われても仕方がない。その覚悟を決める。

「人を好きになるのは理屈じゃないから、織江ちゃんが本気だっていうならどうしようもないって思うの。相澤君もいい加減じゃないのは判ったし」

 言葉を切った由里子さんの眸が、翳(かげ)ったように見えた。

「ただね。相澤君が極道に身を置く以上はきっと色々あると思う。出来れば織江ちゃんには、普通の人と幸せになって欲しかったなぁ」

 淡い笑顔はどこか哀しそうで。

「参ったなぁ・・・。そっかぁ、あたしが引き合わせちゃったんだねぇ」

 目を伏せ気味にもう一回、今度は大きく息を吐く。
 けれど、次に顔を上げた時はいつもの凛とした表情を浮かべていた。

「あたしは見守るしか出来ないけど・・・織江ちゃんも相澤君も大好きだから、・・・いつでも二人の味方だからね」

「由里子さん・・・」

「あ、やだ、織江ちゃんたら泣かないでよぉ!」

 思わず零れてしまった涙に由里子さんが慌てている。
 だって。本当に嬉しかったんです。
 渉さんを知っている貴女に、彼の隣りに居てもいい存在だと認めてもらえた事が。 

「・・・ありがとう由里子さん」

 わたしは泣き笑いみたいな顔で、心から言った。

「由里子さんが渉さんと出逢わせてくれたから、すごく幸せなんです。今まで生きてきて・・・一番幸せなんですからっ」