「・・・渉さんの知り合いなの。色々あって・・・アパートも引っ越したから車で送ってもらってるのよ」

 さり気なく。

「そうスか」

 相変わらず抑揚のない口調が返った。

「ならいいっス」

 牧野君はそれ以上は訊かず、店頭に戻って行った。
 わたしは張り詰めていたものを解放して、深く深い溜息を逃すのだった。







 その日の夜は、毎月、第三日曜に実施する“意見交換会”という名の飲み会だった。
 もちろん場所は海鳴り亭。由里子さんも皆勤賞の出席率を誇っていて、いつも通りにペースは最初から出来上がっている。

 来月はバレンタインというのもあって、由里子さんは野乃ちゃんに「牧野君はイイと思うけどなぁ!」なんてわざとらしく話を振ってみたり。
 俯いたきり、首を引っ込めた亀のようになってる野乃ちゃんを見て、案外満更じゃないのかしら、とふと思った。
 すると。黙って呑んでいた牧野君がボソッと口を開く。

「・・・俺、好きな人いるんで」

 一瞬。心臓を掴まれたかと思ったぐらいにドキッとした。

「え~っ、そうなんですかぁ?! うそ、初めて聞いた!!」

「いや、言ってないし」

 果歩ちゃんの勢いも受け流して彼は淡々と返す。

「え、告ってないんですかぁっ?!」

 ・・・・・・心臓にぐさりと何かが刺さる。

「・・・・・・さぁ」

 牧野君ははぐらかして言わない。

「言っちゃいましょうよ! 言っちゃって下さいよぉ!」

「決めんの俺だし」

「え~、どういう人ですかぁっ? 歳上?、下?」

「・・・上。後は言わない」

 え~、訊きたーいっ、と駄々をこねる果歩ちゃん。
 牧野君はもう取り合わず、黙々と呑み始める。
 由里子さんが「青春っていいわねぇっ」とケラケラ笑い、わたしは釣られた振りで。・・・小さく笑うしかなかった。