閉店は夜の7時半。セルドォルは賃貸マンションの一階に店舗を構えていて、通り沿いではあるけれど繁華街から外れている。7時を回る頃には人通りもぐっと減るから、遅くまでダラダラと店を開けててもコストが掛かるだけ、と由里子さんは残業も許さない。

 時間になったらシャッターを下ろし、レジを合わせてから遅くても8時には全員でお店を出る。決まり事の一つだった。

「お疲れさまでしたぁ!」

 裏口をしっかり施錠し、表通りに出る。
 例のソウタ君が迎えに来ていた果歩ちゃんは満面の笑顔でわたしと牧野君に手を振り、二人で駅の方へと仲良く歩き出す。

「じゃあ俺、明日休みなんでヨロシクっす」

「ん! 気を付けて帰ってね!」

 マウンテンバイクで片道30分の牧野君はヘルメットを被り、デイバックを背に颯爽と。あっという間に姿が小さくなって消えた。

 ちなみにわたしが住んでるアパートはここから歩いて10分ほど。通りを駅とは反対に少し行って曲がったところにある。
 実は紹介してくれたのは由里子さん。採用と同時に、知り合いに不動産屋さんがいるからと、築20年ながらモニターホンも付いたバストイレ別、南向き1ⅮKをしかも家賃まで交渉してくれて。
 閑静な住宅街の一画で目の前に水路が通っていた。そのお陰で建物も建たずに陽当たりも良好だった。

 夜の冷気に包まれながらアパートに向かい足早に歩道を歩く。癖、というか歩調を合わせて歩く機会が少ないせいか、いつでも早歩きになってしまうのだ。ブーツのかかとがカツッコツッコツッと小気味いい音を響かせ、だから気が付かなかった。

 少し後ろを足音を潜ませて付いてくる影があった事など。